函館短期大学発「食・健・幸」
食を学ぶことは健康を学ぶこと。健康はすべての人が願う幸せ。


  味覚と味覚障害
      「食品学実験」担当助手  清水 陽子
コラム No.10 
2007年6月 

 最近、”味がわからない”という「味覚障害」の人が年々増加しているそうです。なぜ味覚が失われるのか? そもそも味覚は何のためにあるのか? 不思議な味の世界をのぞいてみましょう!


● なぜ味覚があるのか ●
 ヒトが舌で感じる味には、大きく分けて5つの種類があります。
 砂糖の「甘味」、塩、しょうゆの「塩味」、お酢の「酸味」、コーヒーや緑茶の「苦味」そして、昆布だしの「うま味」の5つです。ヒトがこれらの味を識別できる能力を備えているのは、必要な栄養素を効率よく摂り入れるためや毒物を誤って食べないようにするためだと言われています。では、それぞれの味にどういう意味があるのかみてみましょう。

甘  味  「糖が存在」 エネルギーになる食品
塩  味  「ナトリウム、カリウムなどが存在」 ミネラル源
苦  味  「毒になるものが存在」
酸  味  「代謝を促進する有機酸の味」「発酵・腐敗味」
う ま 味  「アミノ酸、核酸が存在」 主にたんぱく質を含んだ食品

 味覚は、単に味を楽しみ食欲を享受するだけでなく、甘味、塩味、うま味は栄養源の意味として、酸味、苦味は危険物の意味があります。甘味は受け入れ、苦味や酸味は拒否するという感覚は、ヒトが自分の身を守る生得的に備わった反射機能なのです。そのためヒトは苦味に対しては敏感です。間違って危険なものを飲み込まないために他の味に比べ、苦味はほんの少量でも「苦い」と感じるようになっているのです。

 このようにそれぞれの味には意味があり、味覚は健康な食生活を送る上でなくてはならないものなのです。


● 味覚障害はなぜ起こるのか ●
【味覚障害とは】
 味覚障害の症状としては次のようなものがあげられます。

(1) 味覚減退・味覚消失 味の感じ方が鈍くなったり、全く味を感じない
(2) 異 味 症 本来の味と違う味に感じる
(3) 自発性異常味覚 口の中に何もないのに苦味や渋みを感じる
(4) 解離性味覚障害 甘味などの特定の味がわからない
(5) 悪 味 症 何を食べてもいやな味として感じる

 味は舌やのどの奥に広がっている味覚のセンサーである『味蕾(みらい)』で感じます。味蕾は花のつぼみの形をした微小な器官で、味蕾にある味細胞と呼ばれるものと食物の成分とが、鍵と鍵穴のような関係で反応して味を感じる仕組みになっています。この味蕾から神経を介して脳に味が伝えられます。味覚障害はこの経路のどこかに異常があると起こるのですが、実際には味蕾の異常によって起こることがほとんどです。



【味覚障害の原因】
● 高齢によるもの
   味蕾の数は乳幼児の時が一番多く、年を重ねるにつれて減少し、高齢になると味蕾の感度も低下します。また、唾液の分泌が減少して口の中が乾燥するため、味の成分が味蕾に十分に入り込めずに味を感じにくくなることがあるので、水分を摂りながら食事をすると良いでしょう。
● 亜鉛不足によるもの
   様々な食品に微量に含まれている亜鉛は、体の細胞が新しく生まれ変わる新陳代謝のときに欠かせないミネラルで、不足してしまうと新しい細胞が充分に作られなくなります。味蕾の細胞は体の中でも特に新陳代謝が盛んなため亜鉛が不足すると味蕾細胞の若返りが阻止されるので、味覚が低下してしまいます。加工食品やインスタント食品に頼っている人、無理なダイエットをしている女性などは栄養の偏りからくる亜鉛不足に注意しましょう。
● 食品添加物の影響
   加工食品やインスタント食品に含まれている「ポリリン酸」や「フィチン酸」などの食品添加物が亜鉛の吸収を妨げたり、排出を促したりします。
● ストレスの影響
   ストレスなどの精神的な原因で味覚に異常をきたすこともあります。精神的なストレスを貯めていないか振り返ってみましょう。


● 亜鉛の1日の目安は男性 12mg、女性 10mg ●
 成人が必要な亜鉛の摂取量は、1日に 10~12mg とされています。日本人の主な亜鉛供給源は米ですが、平均的な食事では 9mg 程度しか摂れていないと言われています。亜鉛を多く含む食品には、牡蠣(かき)、豚レバー、うなぎ、大豆製品などが挙げられます。積極的に摂取し、味覚障害の予防を心がけましょう。



 味覚障害になってしまっては、食事も楽しくありません。舌で感じている味を大事にしたいものです。甘味、塩味、酸味、苦味、うま味は食生活を豊かなものにしてくれるだけでなく、人体にとって有用な生理作用も兼ね備えています。ひとつの味に偏ることなく取り入れていくことが健康的な生活へとつながっています。
バランスの取れた食生活、一日一日、一食一食大切にして過ごしましょう!!


  <参考文献>
     ・栗原堅三 著 : 味覚の仕組み 14-21, 食生活 Vol.99, 全衛連「食生活」出版局(2005)
     ・南出隆久・大谷貴美子 編 : 栄養科学シリーズNEXT 調理学, 講談社(2000)
     ・五島孜郎・岡﨑光子 編著 : 栄養学概論, 光生館(2000)


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